【王子様と神の子と天才】
大石センパイの元を逃げ出した俺達は…今度は、不二センパイと遭遇していた。
「越前に、幸村…?」
買い物の帰りらしく、片手に買い物袋を持った不二センパイが、驚いたような表情で俺達を見た。
けれどそれは一瞬のことで、不二センパイはポケットからケータイを取り出すと何やらピコピコと操作する。
「?」となった俺達に向かって、不二センパイが面白いものを見つけたかのように笑った。
「さっき英二から「おチビが幸村につれてかれちゃう!」ってメールが来たんだけど、何事?」
…大石センパイは、どうやら菊丸センパイにメールしたみたいだ。けど、見事なまでに伝言ゲームに失敗してる。
ちらりと俺に視線を向けた幸村さんが、けらけらと笑った。
「凄い伝言ゲームになってるね。大丈夫、それウソだから。大石君があまりにも面白いからからかっただけだよ」
幸村さんがあまりにも呆気なく事実を口にしたので、俺は驚く。
幸村さんの事だから、あれやこれやと嘘八百を並べ立てると思ったのに。
「何か意外っすね。アンタの事だからもっと引っ張るかと思ってた」
「だって不二は、騙すより一緒に乗ってもらった方が楽しそうだし。そういうの好きだろ?」
…的を射てる。
でも何で、幸村さんが不二センパイの性格を把握してるんだろう?
「それはほら、ボウヤが色々話してくれたから。何となくね」
こっそりと尋ねてみれば返ってきたのはそんな答えだった。
けど、いくら小声で話してもこの距離じゃ不二センパイに筒抜けだ。
「つまり、僕にやってほしい事がある…って事かな」
「そうそう。話しが早くて助かるよ。単刀直入に言うと…手塚を引っ張り出したいんだよね」
「ふぅん?おやすいご用だよ」
おやすいご用、なんすか。
菊丸センパイの事だから、きっとレギュラー全員に不二センパイに送ったのと同じメールを送っているはずだ。…でも、手塚部長には…送ってないと思う。だって、あの人にメールって送り難いし。気軽にメールしていいような雰囲気、無いからね。
けど、そんな事は問題にもならないのが、不二センパイだ。
「あ、もしもし手塚?うん。…実はさっき、立海の幸村と偶然会って、伝言を頼まれたんだ。『ボウヤを返してほしかったら一時間後に青春台駅まで来い』って。うん、うん…わかった、確認してみるよ。…じゃぁね」
…電話を切った不二センパイが、にっこりと笑っう。
俺と幸村さんは一瞬顔を見合わせて…そして堪えきれなくなって笑い出した。
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