【王子様と神の子とデータマン】
「俺さ、こうしてボウヤと仲良く歩いてる事については何の不満もないんだけどさ」
突然隣を歩く幸村さんがそんな話を振ってきた。
何となく気が合って何となく一緒にテニスをするようになって何となく一緒に遊びに行くようになって…いつの間にかそれなりに仲良くなっていたけど、未だに幸村さんの思考回路はよくわからない。
いつも話が唐突だし、いつの間にか話が関係の無いところにふっとんでるし。
「何すか?」
「いや、後ろの二人。ウザイなぁと思って。気づいてるだろ?」
「…まぁ。確かに、ウザイっすね」
後ろを振り返る事なく俺達は会話をするが、意識は背後に向いている。
俺達の背後へそれなりの距離を置いた位置に、その二人はいた。
さっきからずっと、俺達の後をついてきていてしかもじっとこっちを見ている二人。
「確かに昨日蓮二は明日は幼なじみに会いに行くとか言ってたけど…油断してたよ。ったく、どこから漏れたんだろう」
幸村さんが心底不服そうにぼやいている。俺も、今日幸村さんとあうなんて一言も言ってないんだけど。ホント、どこで情報をつかんだんだろ。
背後の二人組、それは言うまでもなく乾センパイと柳さんだった。
「ボウヤとあうのがバレると真田とか赤也がうるさい上にくっついて来ようとしたりするから、注意してたんだけど」
「俺も、幸村さんとあうとかうっかりあのセンパイ達に漏らすと、みんなして面白がってくっついてくるから黙ってたっすよ」
顔を見合わせて、ため息。
「あーあ、折角ボウヤとのデートなのに」
「は?デートなんすか、これ」
「俺が今決めたがらデートだよ。で・ぇ・と。嬉しいだろ?」
「…別に。ま、いいっすけど」
軽口の応酬はここでなりを潜め、幸村さんが真面目な目でこっちを見た。
あー…この人相当頭に来てる。
流石にそれくらいはわかるようになった。
幸村さんは怒鳴ったりとかはしないから一見穏やかそうに見えるけど、結構過激だ。…しかも、その過激具合が一般人とはずれている。
ま、面白いからいいんだけど。
「ボウヤ。振り返りざまにサーブ打って、貞治クンの眼鏡ふっ飛ばす自信ある?」
「…なんでアンタ、乾センパイの事名前で呼んでんすか」
「蓮二が貞治貞治貞治って言うから、そっちのほうで馴染んじゃっただけだよ。あ、もしかしてヤキモチ?」
人の頭をぐしゃぐしゃと幸村さんが乱暴に撫でる。
違う、と否定したけど幸村さんは聞きゃぁしない。
仕方なく暫くされるがままになっていると、ようやく満足したらしい幸村さんは俺のことを解放してくれた。
そして改めて「で、大丈夫なの?」と聞いてきた。
「アンタ、誰に向かって言ってるの?てか、アンタこそ大丈夫?」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべれば、幸村さんは満足げに笑った。
「ボウヤこそ、誰に向かって言ってるのさ」
「ま、お互い様っすね」
俺達は歩きながらラケットを取り出し、互いに見せ合い、ラケットについて話しているフリをする。俺たちが何をするつもりかを気取られないように、ラケットを取り出していても不自然だとは思われないように。
タイミングを計る間の、カモフラージュ。
「…俺達のデートを邪魔した事を、後悔させてやるよ」
そう言う幸村さんは、悪戯を計画している子供みたいに楽しそうだった。きっと俺も同じ様な表情をしてるんだと思う。
結局俺達は、似たもの同士なのかもしれない。
「行くよ」
「うぃーっす」
くるりと突然振り返った俺達は、間髪入れずにテニスボールをデータマンコンビに向かって叩き込んだのだった。
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