【王子様と神の子と青学の母】
蓮二と貞治クンを容赦なくボコった俺達は、ようやく背後からの監視の視線から逃れて意気揚々と歩いていた。
蓮二の事は大好きだけど、俺の楽しみを邪魔するって言うなら話しは別だ。
貞治クンが持っていたよくわからない汁をボウヤが二人に嬉々として飲ませていたから、多分しばらくは復活しないはず。
「この前と同じコートでいいっすか?」
「うん。ボウヤの好きなところでいいよ」
「何か妙に殊勝っすね」
「失礼な王子様だよね、ホント」
ぎゅぅ、と頬をつねるとボウヤの生意気そうな表情が奇妙に歪んだ。
…やばい、超かわいい!ほっぺたとかさりげなくむにむにしてるし!
「すっごいかわいい!立海に持って帰りたいなー、毎日可愛がれたら幸せだよなー!」
「…いひゃぃ」
ポツリと呟く様子がまた可愛くて、俺はぎぅ、とボウヤを抱きしめた。
赤也も可愛いけど、それとはまた違ったかわいさだよね!
「ボウヤ、本気で立海においでよ。てかつれて帰る!」
「なんすか、それ」
「え、駄目?」
「ダメっす」
本気で否定するボウヤが面白くて、俺はけらけらと笑った。
普段はクールなボウヤだけど、時折ムキになる子供っぽい一面がある事も最近わかってきた事の一つ。
その時後ろから「越前に幸村君!?」という聞き覚えのある声が投げかけられた。
俺と越前は、同時に振り返る。
「大石センパイ…何してるんすか」
「それはこっちの台詞だよ、越前!一体幸村君と何をしてるんだ?」
よっぽど意外なのか、大石君は俺とボウヤを見比べて目を白黒させている。
俺は、頭の中から蓮二に教えてもらったデータとボウヤに話してもらった人物像を引っ張り出す。
青学副部長の大石秀一郎。ゴールデンペアの片割れ。心配性で胃痛持ち。
ふむ。面白そうだ。
「何って…」
問いかけに答えようとするボウヤの口を塞いで、俺は驚く大石君ににっこりと極上の笑みを向けた。
「ボウヤを立海に引き抜く相談をしてるんだよ。ボウヤも大分乗り気だから、これから立海の中を見せようと…」
「何だって!?」
俺の話が終わる前に、大石君が叫んだ。
わ、予想以上の反応だ!
けどこれは、引き際が肝心だな。
うっかり深入りすると厄介な事になりそうだ。
俺は素早く踵を返す。
「ボウヤ、行くよ!」
「アンタ、何勝手に遊んでるんすか」
「面白そうだからつい、ね」
「知らないっすよ?大石センパイは思い込み激しいっすからね」
「だからほら、厄介な事になる前に逃げるよ!」
ボウヤの手を掴んで、強引に走り出す。
背後では大石君がまだ頭を抱えて独りでブツブツ何かを呟いていた。
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