な
「何で…」
叫ぶ気力も体力も奪われた、消え入りそうな声は、静かな病室では妙に大きく聞こえた。
「何で俺がこんな目にあわなきゃいけないんだよ…」
誰に向けられたのでもないその声は、やり場のない怒りと悲しみを含んだまま消えた。
病室に入ろうと扉に手をかけた体制のまま、真田は歯を食いしばった。
に
「仁王…やっぱりだめ…恥ずかしいよ…」
「大丈夫じゃ、綺麗ぜよ?」
「でも…」
「安心しぃ、怖くないぜよ」
「…ん、優しく、してね?」
「…何をやっているのだ、貴様らは!」
真田が真っ赤になって、いちゃいちゃしている幸村と仁王を怒鳴りつける。
それに対して二人は「新婚さんごっこ」とシラっと答えた。
ぬ
「ぬるい!ぬるいぬるいぬるいっ!」
テニスコートに真田の大声が響いている。
「迷惑な大声じゃのぅ」
「肺活量があるのは美徳だと思いますよ」
「肺活量があっても、無駄使いしてたんじゃぁ意味なか」
「それは否定出来ませんね…」
さりげなくひどい事を言っている紳士と詐欺師にはまったく気付かず、真田は相変わらず大声で色々とわめき続けていた。
ね
願い事が叶うというジンクスも。
御利益のあるというお守りも。神頼みも。
俺は信じない。
それらにいくら祈っても、願いが叶う事などありはしないのだと痛いほど知っているのだから。
俺が信じられるのは自分だけ。
結局全て、自分でどうにかするしかないのだ。
神様なんかが助けてくれる事は有り得ない。
神の子が神を信じないという矛盾に、俺は思わず自嘲した。
の
「喉乾いたなー」
「そっすね!キンキンに冷えたコーラとか飲みたいっす!」
「いいね!夏ってかんじ」
「ですよね!」
ニヤリと笑った二人はくるりと振り返って、よく似た笑みを浮かべた。
そして、声を揃えて叫ぶ。
「おとーさん!買ってーっ」
「だ…誰がお父さんかッッ」
「わーっ、お父さんが怒った!」
脱兎の如く真田から逃げ出していく幸村と赤也がゲラゲラと笑う。
「真田っ、あそこのコンビニまで競走な!負けた人がみんなにコーラをおごる!」
「買い食いとはけしからん!」
わめく真田の事など気にも止めず…二人はコンビニ目指して走り出した。
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