さ
「真田副部長ーっ!」
赤也の声に振り返ると、必死の形相でこちらに駆けてくる後輩の姿。
何事かと目を見開けば、持ち前のスピードであっという間に真田のところまでやってきた赤也に一冊のノートを渡された。
「部長からっす!何が何でも柳さんに渡すなって言うんすけど、俺じゃもう無理なんで副部長に託します!じゃ!」
早口でまくし立てた赤也は現れた時と同様にあっというまに去っていった。
一体何事かと渡されたノートに目を落とした真田は硬直する。
『柳蓮二データノート』と、そのノートには達筆な文字で書かれていた。
慌てて周囲を見渡せば、こちらに向かってやってくる開眼状態の柳の姿。
…真田は、一目散にその場から駆け出した。
し
しんと静かな病室で、じっと精市の寝顔を見つめる。
もう随分と病室に閉じ込められている精市の寝顔は病的に白くて、やつれて見えた。
無造作に投げ出された点滴の針のささった腕も、折れてしまいそうに細い。
この腕で、精市は全国の猛者共をひれ伏させてきたと言うのに、今ではそれが嘘のようだ。
だがそれでも俺達は信じている。
神の子と呼ばれた精市が、再び俺達の元へ帰ってきてくれる事を。
す
「好きだよ、仁王」
「俺もじゃ、幸村」
今にも唇が触れそうな距離でお互いに囁く。
けれど彼らは理解している。
相手の愛しているのは己では無いと。
所詮、疑似恋愛。
お互いの思い人を射止めるまで続く、戯れに過ぎないのだと。
せ
先輩後輩の上下関係というのは、恐ろしく面倒くさい。
だから俺は、必要以上の上下関係を作らないようにしようと決めた。
「決めたんだけど…」
「それはすげー良い事だと思う。けど幸村君は赤也を甘やかしすぎだぜぃ?」
「……やっぱり?」
ブン太に言われて俺は頭を抱えた。
うーん、子育てって難しい。
そ
「それで?」
「あー…だから、何じゃ…その…」
「その、何です?」
淡々と問い詰める柳生と、しどろもどろの仁王。
みんなソレを見て笑っているけど。
よく見ろよ、アイツら入れ替わってるんだけど?
…他の連中なら兎も角、俺を騙すには百年早いよ。
そう視線で訴えれば、入れ替わった紳士と詐欺師は小さく苦笑を浮かべたようだった。
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