04 入れ替わる(悪友仁王&幸村)
「ねー仁王」
「何じゃ?」
「仁王ってさ、柳生意外とは入れ替わりするつもりは無いの?」
幸村は花壇の手入れに精を出している。仁王は仁王でごろりと寝転んで、秋の高い空をぼう、と見上げていた。
お互いに互いを見ようともせずに、二人の会話わ続く。
「何じゃ、また試合で使いたいんか?あれからまた腕を上げとるからいつでもOKぜよ?」
「んー、そういうんじゃなくて。俺と仁王で入れ替わりって出来るかな」
あまりにも意外な幸村の台詞に、仁王は思わず視線を幸村の方に向けた。
それに気づいたのか、幸村も花壇をいじる手を止めて仁王を振り返る。
「…出来んことは無いと思うぜよ。身長も体重もさして変わらんし、俺は幸村にイリュージョンも出来るからのぅ。…けど、試合で使うんじゃなければ、何で使うんじゃ?」
「ん?ただ、俺たちが入れ替わって柳生を嵌めて遊んだら楽しいだろうなーって思って」
幸村がニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべて楽しそうに言う。
その台詞を聞いて、仁王は思わず笑った。
そして起き上がると幸村に向かってニヤリと笑う。
「その話、乗ったぜよ」
仁王のその台詞を聞いた幸村は、満足そうに微笑んだ。
05 携帯を忘れる
「…しまった」
真田弦一郎は、その事実に気づいたとき思わず呆然とそう呟いてしまった。
慌ててポケットの中を確認する。無い。かばんの中も確認する。やはり見当たらない。
何しろ、入れた記憶が無いのだから無くって当然なのだ。
真田が慌てて探しているのは、携帯電話だ。
『携帯電話依存症』が叫ばれる昨今だが、真田は見事なまでにその枠外な存在である。
そうであるが故に…ケータイを忘れたという事実に気づかないままここまで来てしまった。
普段であれば、なんら問題は無い。
だが、今日はダメだ。
今日は幸村とデートである。時間も決まっている。だが、待ちあわせ場所はまだ決まっていないのだ。
二人ともこの駅で降りるのが初めてだったため、何を目印にして良いかわからず『とりあえず駅に着いたら連絡…でいいんじゃない?確実だし』という幸村の一言ですべては決定した。
…だというのに。
これでは幸村がどこにいるのかは愚か、到着しているのか否かさえわからないではないか…!
いくら呼んでもつながらない電話にイライラする美しい恋人の姿が目に浮かぶ。
真田はきょろきょろと辺りを見回したが、幸村の姿は見えない。
思わず頭を抱えた真田を、通りすがりのサラリーマンが不思議そうな視線で眺めていた。
06 出待ち
ブラインドを下ろした部室の窓。ブラインドの隙間からちらりと外を覗いた俺は、思わず噴出した。そしてちらりと後ろに視線をやって、また笑う。
俺の背後で椅子にえらっそうに座っているのは、氷帝学園のキングもとい氷の帝王跡部だ。
立海の校庭にヘリで降り立った跡部の目的は『偵察だ』との事。
…こんな堂々とした偵察があっていいんだろうか。良いんだろうなー、だって跡部だし。
ともかく跡部を部室に引っ張り込んだ俺だったが、噂に名高い『跡部様』を一目見ようと女子が来るわ来るわ。
ほかの部員たちは、今日はもう帰した。こんなんじゃ練習にもならない…というか、練習できるような状況じゃないからね。
「流石跡部。女の子たちがまだすごい形相で待ってるよ」
「当たり前だろ?あぁん?」
うーん、そこで堂々とされてもなぁ…。
が、ここまで来るといっそ気持ちが良い。俺は小さく笑って跡部の隣に腰を下ろした。
「外が落ち着くまでここに立てこもるしかなさそうだ。…ってわけで、何か面白いこと話してよ」
「…面白いこと?」
「そ、面白いこと。せっかくなんだし、楽しい話をしようよ」
外の騒ぎをよそに、部室の中はゆっくりと時間が流れてゆく。
そして俺は思う。
たまにはこんな来客も、悪くない。
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