あ
朝日に促されて、ゆっくりと意識が浮上する。
ふと隣に視線を向けると、そこには真田の姿があった。
…何で真田がこんなところに居るんだよ。
寝起きでうまく動かない頭で、俺は考える。
ふと視線を落とせば、俺は服を着ていなかった。そして、隣でのんきに寝息を立てている真田も。
…即座に連想することは、ただひとつ。
『…真田の大馬鹿野郎!責任取れよ!』
「…っていう夢を見たんだよ、蓮二」
「だから出会いがしらに弦一郎を殴り倒したと言うわけか。ふむ」
「真田のクセに、マジであり得ない」
「……わかったから、弦一郎に謝って来い」
い
「今何してる?」
「宿題。神の子さんは?」
「俺も宿題。次回の練習試合のオーダーと、部費請求用の資料の作成と、あとは…」
「…もういいっす。てか、そんなんで俺に電話してる暇とかあるの?」
「だってやりたくないんだよ。面倒なんだよ!」
「俺、関係ないし」
「…良い度胸だね、ボウヤ!」
こうして春の夜は更けてゆく。
当然宿題が進まずに頭を抱えることとなるのだが、それはまた別の話。
う
嘘だろ?
俺は呆然とつぶやいた。
だって。こんな事あるはずがねぇんだよ。
そうだよ、今回はこんな事にならないようにって、最善の手を尽くしたんだよ!
柳さんとか部長に協力してもらって、真田副部長のしごきにも耐えて。なのに!
「…何で…っ!」
俺は愕然と、手にした解答用紙を見下ろす。
大きく踊る、0点の文字。
「赤也、英語のテストどうだった?」
「ぶ、部長…!」
背後から響いた声に、俺は硬直する。
こんな点数を見られたら、絶対に怒られる!五感奪われる!つーか殺される!!
一瞬の後、俺はその場から一目散に逃げ出したのだった。
え
「笑顔」
「何じゃ、唐突に」
「真田の笑顔が見てみたい。仁王、イリュージョンで真田に化けて笑ってよ」
「…神の子様の仰せのままに」
「やった♪」
「ふははははは!!敗北の淵へ案内してやろう!」
「それは違う!ウザイし暑苦しい!」
誰が幸村の言うとおりに真田なんかの優しい笑顔を見せてやるものか。
そんな事をしたら幸村はますます真田に入れ込む決まっとる。冗談じゃなか。
「プピーナ」
「…真田の顔でそれ言われると、ぶん殴りたくなるね」
幸村が本気でこぶしを握ったので、俺はあ慌ててイリュージョンをといた。
幸村の真田に対する好感度があがるのは腹が立つが、真田の変わりに殴られるのは御免被るぜよ。
悔しそうに俺を睨んでいる幸村に向かって、俺は笑って言った。
「ムカツクんなら、本物殴ってきんしゃい」
お
…遅い。
俺は時計に眼をやる。
約束の時間は当に過ぎている。ケータイを開いてみても、電話もメールも無し。
もちろんこちらから送ったメールにも返信は無く、電話も無常な電子音が流れるばかり。
俺は苛々と腕を組みなおした。
まったく、これえは時間ぴったりに来ていた俺が馬鹿みたいではないか。
そして、更に待つことしばし。
「あ、蓮二!ごめん!電車が遅れた上にケータイ忘れちゃって!」
向こうから駆けてくる精市の姿を見たとたん、それまでの怒りや苛々はどこかに吹き飛んだ。
精市を前にすると、怒るなどと言う感情はいつもどこかに消えてしまう。
それでもそれを素直に顔に出すのは癪なので、俺はあえて機嫌の悪い顔を崩さなかった。
必死に謝る精市を見て居ると、得をした気分になる。普段は怒られている相手に逆に謝られると言うのは、中々に気分の良いものだ。
「遅刻するのは部長として如何な物かと思うぞ」
「だからごめんってば!」
許して、と上目遣いに請う精市を見て、俺は良いデータが取れたと内心ほくそ笑んでいた。
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