【幸村とブン太のお菓子談義part2】
部室に入ると、ブン太が何枚かの紙を手に『うー』とか『あー』とかうなり声を上げていた。
何事かと思い、後ろから覗き込む。
「…クリスマスケーキ?」
「うっわ、幸村君!?」
俺の存在にはまったく気づいていなかったらしいブン太が大仰に驚く。
何だそのオバケを見たような反応は。
「失礼な反応だなぁ。てか何でクリスマスケーキの広告なんて見て唸ってたの?」
「俺にとっては一大問題だぜぃ!?」
ガバッとブン太がこちらを振り返った。
その表情は真剣そのものである。
「家族用に一個、俺用に一個欲しいんだけど…なぁ、幸村君はどれがいいと思う?」
…家族用とは別に、自分用ってのがあるんだ。
思わず突っ込みそうになったけど、そこは抑えてブン太の手にあるチラシを覗き込む。
スーパーやデパートのものから有名店のものから小さな個人店のものまで、実に選り取り見取りだ。ここまで来ると確かに候補を絞るのも一苦労なのかもしれない。
「どれで迷ってるとか無いの?」
「それがさぁ、今年のケーキは高くて。15cmで5000円とかマジありえねぇだろぃ」
「は?そんなするの!?じゃぁもっと安いのにすればいいじゃん」
「だけどやっぱ有名店のってのも捨てがたいしー…」
むぅぅ、とまたもやブン太が唸り出す。
その目は、テニスをしている時並に真剣だ。
「今すぐ決めなくてもいいんじゃない?」
ふと思いついてそう言うと、ブン太がものすごい勢いでこちらを振り返った。
うわ、何事?
「早く予約しないと無くなっちまうだろぃ!?」
「そうなの?」
「そうなの!…だけど個人店は予約開始がまだだったりするんだよなぁ…そういう店のやつも捨てがたいし」
「なら早く無くなっちゃうとこのを予約して、個人店のは当日買いに行けば?ほら、よく店の前で『クリスマスケーキ如何ですかー』とか言って売ってるじゃん」
「そんな事するのは漫画の中とコンビニだけ!当日じゃ買えるかどうか微妙なんだよー」
また『うー』とか『あー』とか唸り出したブン太に、俺は肩をすくめて苦笑いした。
これは、何か言うだけ無駄。
好きなだけ悩ませておく事にしよう。
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…菓子屋で働いている私が書くと、自虐ネタ以外の何でもない内容です(苦笑)
それにしても…今年のクリスマスケーキは本当に高いです。
あんなの、誰が買うんでしょう。不況とか言ってるのに。…最も、買う人が居るから売るのでしょうが。
うちのお店はブン太の言っている『予約の開始がまだな個人店』です。お客さんから色々と問い合わせは来ますが、まだ試作すらしていません。
…この話はクリスマスの当日に、当日用のケーキを買いに来たお客さんによく『何でケーキ屋なのにケーキが無いの!』と怒られる事から発生したネタです。
そんなことを言われても、クリスマスのときばかりはどうしようもありません。こっちだって必死です。
皆様もクリスマスケーキはきちんと予約して買ってくださいね(笑)
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