た
楽しすぎる毎日が続くと、この日常がある日突然ぶっ壊れるんじゃねぇかと思うときがある。
だから俺は、毎日を必要以上に騒いで楽しく過ごす。
この永遠に続きそうな気がする幸せな時間も、限りあるものだと知っているから。
先輩たちと過ごす高校生活。中学の時のような思いはしたくないから。
「赤也!」
「うぃっす!今行くっす!」
副部長に呼ばれて、俺は駆け出す。
この幸せな日々が明日突然無くなってしまうとしても後悔しなくてすむように、俺は今日も精一杯笑う。
ち
「チャンス!ハンバーグもーらいっ」
「うわ…っ…こら、ブン太!」
ジャッカル先輩と丸井先輩の昼食風景は争奪戦だ。
…と言うか、丸井先輩が一方的にジャッカル先輩の弁当を狙っている。
「仁王君!好き嫌いはやめなさいと言っているでしょう!」
「プピーナ…」
仁王先輩と柳生先輩の昼食風景は、保護者と子供みてぇだ。好き嫌いの多い仁王先輩はしょっちゅう柳生先輩にお小言を頂戴している。
「ほら真田、あーん」
「口を開けろ、弦一郎」
「む…むぐぐっ」
「さて。精市ほら、お前も口を開けろ」
「ん。あ、蓮二、次は真田の卵焼きが欲しいな」
「ああ、わかった。弦一郎、もらうぞ」
「あーん」
…三強の昼食風景は変だ。妙だ。あり得ねぇ!
そう思うのに、何で俺はあそこに入りたいなんて思っちまうんだよ。
俺は思わず、頭を抱えた。
つ
…疲れた。
隣には、俺と同じくぐったりとベンチに座り込んでいる神の子さんの姿。
流石の俺達も、休憩も無しにこれだけぶっ通しでラリーを続けていれば疲れ果てて動けなくもなる。
というか、お互いに意地を張って動けなくなるまでラリーをやめなかったのが原因だ。
「…流石に、限界…」
「俺もっす…」
あまりの疲労に、耐え切れずに目を閉じる。火照った体に、夕暮れの風が気持ちいい。
抗うまもなく、意識は闇へと落ちていった。
(ボウヤ、起きて!やばい!)
(…!?俺ら、思いっきり…)
(寝てたみたいだ。うわ、もう八時過ぎてるよ!)
(げっ)
て
「テニスしに行こうよ」
「…今からか?」
「うん、今から」
「…もう夜だぞ」
「うん、そうだね」
「この近くにナイター設備のあるテニスコートなど無いぞ?」
「知ってるよ」
幸村は言い出したら何が何でも引かない。
説得しだいでは引き下がってくれる時もあるのだが、俺では幸村の説得は無理だ。
俺が何か言ったところで幸村を怒らせて終わるのは目に見えている。それはものすごく不本意だ。
なので。
「…仕方ない…行くぞ」
「うん」
しぶしぶ頷いて歩き出すと、幸村は満面の笑みで俺についてきた。
と
兎に角、急いで逃げなければ。
切原と丸井は必死で校内を全力疾走していた。
どうにかして立海の敷地内から逃げ出さなくてはならない。
立海の敷地は広いが、二人は今立海テニス部の誇る三強から逃げているのだ。
いくら広い敷地であろうと柳のデータはその全てをカバーするだろうし、真田と幸村の行動力を持ってすればあっというまに追いつかれてしまうだろう。
「だからやめろって言っただろぃ!?」
「今更っす!」
校門が見えてきた。三強の姿は、無い。
いける!
そう思った瞬間、ふらりと門の影から幸村があらわれて、にっこりと笑った。
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