07 全力ダッシュ(三強)
標的、50m先を疾走中。
あの真田が必死の形相で全力疾走して逃げている…と思うと、何だか笑えた。
いや、あんな老け顔でも真田だって中学生なんだし、別に変とかじゃないんだけど…うん。やっぱり笑える。
「ずいぶんと余裕だな、精市」
「当たり前だろ?俺を誰だと思ってるんだよ」
思わずにやけていたら、隣を走る蓮二に突っ込まれてしまった。
でも、俺の台詞を聞いて蓮二はその表情を苦笑へと変える。
…蓮二だって余裕じゃないか。
「蓮二は右から回って。…でもその前に、俺が追いついちゃうかもしれないけど」
「フッ…、了解した」
蓮二の返答を聞いた俺は、一度蓮二に向けて微笑んでから一気に加速する。
前を走る真田に向かって、全力疾走。
追いつくのも時間の問題。
真田がぎょっとした表情でこちらを振り返る。でも。
お前の自業自得だぞ、真田!!
08 追いかけ回す(ブン太と赤也)
立海テニス部の日常として、赤也が真田に追いかけ回されている…という光景はさほど珍しいものじゃない。
俺や仁王が真田に追い掛け回されることもまた然り。
けど…今日のこの状況は一体…何だ。
逃げる真田を、幸村君と柳が追い掛け回してる。
しかもどっちの表情も…かなりマジだ。
三強がクソまじめな顔で追いかけっことかしてるもんだから、残っていたほかの部員たちはとばっちりを受ける前にサクサクと退散した。
実に良い判断だと思う。今コートに残っているのは、その様子をものめずらしげに観察しているレギュラーの面々だけ。
「…何したんすかね、真田副部長」
「…」
俺の隣で三強の様子を見ていた赤也がポツリとそう呟いたが、俺は答えなかった。
どうせまた、くだらない内容なんだろう。
あの三人は時折、どーでも良い事でマジになって喧嘩をする。
つーか。
俺なんかに、あの三人の思考回路が理解できるわけないだろぃ。
三強の鬼ごっこは、まだ続いている。
09 抜け出す
「や、ボウヤ」
面倒そうな表情を隠そうともせずに立っているボウヤの姿を見つけて、俺は手を振りながら近づいた。
『ドウモ』という棒読みの挨拶が実にボウヤらしい。
「…ってかさ、部長が練習抜け出して来てよかったわけ?」
「そう言うボウヤこそ、柱が練習サボっちゃっていいのかい?」
青春台の駅の改札前で、俺たちは対峙している。
互いにユニフォーム姿と言う、部活を抜け出したそのままの格好で。
俺の言葉にボウヤは不敵に笑い、ボウヤの言葉に俺も笑った。
「で、今日はこれからどうする?カラオケとかゲーセンとか行って遊ぶ?」
俺の言葉に、ボウヤが首を傾げて少し考える。
俺は先を促すことなく、静かに答えを待った。
「それも良いけど…それよりテニスしようよ」
ボウヤのその台詞に、俺は思わず笑ってしまった。
だって。
「結局テニスなんだ。せっかくお互いに練習抜けてきたのにね」
「だってそれが一番俺ららしいし、楽しいっしょ」
せっかくだから楽しい時間にしたいというボウヤに、俺は笑ったままうなずいた。それは俺も同じ気持ちだったから。
結局俺たちは、テニスなしでは生きられないのである。
10 宿題忘れた!
俺の足取りは重い。
俺の向かう先は、幸村ブチョーの病室。
いつもならブチョーに会えるから足取りも軽く行くところなんだが。今日はそう言うわけには行かない。行かないわけがある。
『 』
この前ブチョーに言われた言葉。それに対する答えを持っていくことが、俺に出された幸村ブチョーからの宿題。
いつもより時間をかけたけれど、それでもあっという間にブチョーの病室の前にたどり着いてしまった俺は、そこで足を止めて、手をドアノブに書けたままじぃっ、と白い扉を見つめた。
ブチョーはどうして、俺にこんな宿題を出したんだろう。
一体どんな気持ちであんな言葉を口にしたんだろう。
ずっと考えてたけどブチョーの気持ちはわからなくて、質問の答えも出せなかった。
そして俺は答えを出せないまま扉を開ける。
ブチョーはいつも通り微笑んで、俺のことを迎えていた。
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