【壊された君と、その欠片】
『希望と絶望の欠片』
俺は呆然と、目の前に転がっている壊された幸村を見ていた。
一体これは何だ。
何の冗談だ。
人をからかうにしては悪趣味が過ぎる。
否、これは冗談などではない。
今朝俺が出かけるときは、いつものように無邪気な笑顔を浮かべていた表情は見る影もなく砕け、いつも様々な光を宿していた黒目勝ちな大きな瞳はどろりと虚無で濁り、俺を映すことはない。
俺が出かけている間に、一体何があったというのだ?
…嗚呼あぁこんなにもバラバラに砕け散ってしまってあれほど強くて綺麗であったのにしかし幸村は強さと脆さを併せ持つからこそ美しいのだいやそれよりも誰がこのような事をしたというのだ否そんな事よりも早く精市を直してやらなくては嗚呼この粉々の欠片は一体何で繋げば良いのかセロハンテープかあるいは接着剤かはたまたガムテープか違うそんな事を考えている場合か幸村をこんなにした犯人を早く突き止めなければそして復讐せねばならぬ否違う無くしてしまう前に欠片を全て集めてあの愛おしく美しく強い幸村を復元せねばならぬ何という事だこんなに細かく砕かれてしまってどれほどの絶望と恐怖を見せつけられたのか泣いて許しを請うたのかそして叶えられず壊されてしまったのかすまない幸村俺がついていないばかりに今砕け散ったお前を直してやるからな
ふと、思考が停止した。
俺は、壊れた幸村を見る。
壊れて粉々になっていようとも、幸村は『幸村精市』だ。
殺されて俺の前から消されてしまった訳ではない。手を伸ばせばそこにいる。触れられる。暖かい。
ソレナラバ、コノママデモヨイノデハナイカ?
このままであれば、幸村はずっと俺だけのものだ。
俺に愛想を尽かす事もない。他の輩を愛する事もない。俺の前から消える事も無い。
嗚呼、何という甘美な思いつきであろうか?
ならば俺は、幸村を壊した輩に礼を言わねばならぬな。
ふむ、幸村を壊した輩を突き止めて礼を言いに行こう。このような礼儀はきちんと弁えるべきだ。
俺は、砕け散った欠片を踏み砕きながら幸村に近づき、その細い体を抱き上げる。
二度と感情を宿す事の無い虚無を見つめる瞳に。
俺は愛情を込めてそっと唇を落とした。
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